「苦役列車」は144回芥川受賞作品であり、その著者の西村賢太さんは2022年2月に急逝している。
私小説と言われていて、著者の体験や実話を元に書かれた小説らしい。
この小説に書かれていることはほぼ著者の体験とのことで、本当に想像ができないほどの苦労が多く大変な人生だったと思う。
小説を読まなければこんな環境に置かれた人がいるということを、全く気にもとめないし想像もしていなかった。
小説の内容と著者の人生がほとんど被っていることから、著者が亡くなるところまでが、小説の続きだったように感じてしまう。
主人公はどうしようもない人間
主人公の名前は北町貫太。名前からすでに著者を連想させる。
11歳の頃に父親が性犯罪を犯してしまい逮捕され、世間の目から逃れるために、残された家族達は住む場所を変えざるを得なくなる。
そして高校には行かずに19歳になった貫太は、日雇い労働で日々のお金を稼いで食い繋ぐ日々。
貯金をするという概念がなく、家賃は数ヶ月分滞納し、日雇いで稼いだお金はその日のうちに飲み食い風俗に使ってしまうという、世間一般から見たらどうしようもない人間の代表格。
江戸っ子口調なところがあり、性格はプライドが高くすぐに激昂してしまう。そのせいで友達と言えるような人間関係は皆無で交友関係を築くことが苦手。ところが小心者の部分もあり、その場をやり過ごすためなら土下座だって厭わない。
この抑えられない激昂の衝動が、貫太の人生を辛くさせている一因でもある。
そしてまた同じ過ちを繰り返してしまう。どうしようもない人間だ。(2回目)
生い立ちはかわいそうな部分があるが、その後の人生はどうしても共感できない。
私の性格がどうしても激昂するタイプではないからだと思うが、すぐにカッと怒る人の気持ちがわからない。
少し芽生えた友情にホッとする
そんな貫太にも、日雇い労働で出会った同い年の日下部と出会い、少しの間友達のような関係になる。
仕事終わりに飲みに行ったり、風俗に行ったりと親交を深めていく。
ところが日下部に彼女ができてから、貫太の性格も災いして、次第に日下部と距離を置くようになる。
日下部とはそもそも育った環境が違うことを羨ましく思ったり、彼女ができたことを妬ましく思ったり。
だからと言って、自分の今置かれている環境から抜け出すという発想にはならない。
そもそも反骨精神や向上心といったものを持ち合わせていないのが、この主人公の
世の中いろんな人がいる
特に大人になってからは、交友関係は取捨選択できるようになった。
自分が不快に思うような人とは付き合わないようにする、といった防衛策を取ることができる。
そうすると自然と自分と同じような性格だったり、立場だったり、お金の使い方が同じだったりするが多くなる。
だから、あまりにも自分と違う環境に置かれた人間の存在に気づかなくなってしまう。
この小説を読むと理解できない心情が多くある。
だからこそいろんな人間がいておもしろい。
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